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SD-WANとは何か?仕組み、VPNとの違い、導入メリットをわかりやすく解説
クラウド利用やリモート ワークが当たり前になった現在、従来のWANやVPNだけでは対応しきれない課題が増えています。その解決策として注目されているのが「SD-WAN (ソフトウェア定義型広域ネットワーク)」です。SD-WANはソフトウェアによって複数の回線を柔軟に制御し、ネットワークの効率と信頼性を高める仕組みです。
本記事では、SD-WANの概要、VPNとの違い、仕組み、導入によるメリットをわかりやすく解説します。
SD-WANとは

SD-WANは、ソフトウェアによってWAN (広域ネットワーク)を制御し、リアルタイムの通信状況やポリシーに基づいて最適な経路へトラフィックを自動的に振り分ける仕組みです。
しかし、なぜ今このような技術が必要とされているのでしょうか。その背景にある従来のネットワークの仕組みから見ていきましょう。
従来のWANと「境界型」ネットワークの仕組み
まず、SD-WANの前提となる「WAN」とは、Wide Area Network (広域ネットワーク)の略で、本社、支社、工場など、地理的に離れた拠点間を結ぶ企業のネットワークです。従来、このWANは通信事業者が提供する広域イーサネットやインターネットVPNといった閉域網を使って構築され、社内システムが置かれたデータセンターに各拠点を接続する「境界型」モデルが主流でした。
このモデルにおける通信は、社内リソース向けの「境界内部の通信」と、外部のWebサイトなどにアクセスする「インターネット向けの通信」に明確に分けられていました。後者のインターネット通信は、各拠点から直接接続するのではなく、一度データセンターに集約され、そこでファイアウォールなどのセキュリティ チェックを受けてから外部に接続されるのが一般的でした。この構成のメリットは、通信の出入り口をデータセンターに統一することで、セキュリティを一元管理できる点です。
なぜSD-WANが必要になったのか?クラウド時代の課題
この「境界型」モデルの構造は、Microsoft 365やSalesforceといったSaaS、AWSやAzureなどのクラウド サービスの利用が一般化すると、逆に足かせとなります。
クラウド サービスはインターネット上にあるため、各拠点から直接アクセスするのが最も効率的です。しかし、従来のモデルでは、このクラウド向けの大量の通信もわざわざデータセンターを経由する「ヘアピン接続」となってしまいます。その結果、通信の遅延やデータセンター回線の帯域逼迫(輻輳)が発生し、アプリケーションのパフォーマンスが著しく低下するという大きな課題が生まれたのです。
課題を解決するSD-WANの仕組みと特長
こうした課題を解決するのがSD-WANです。SD-WANの大きな特長は、性質の異なる複数の回線をインテリジェントに組み合わせて利用できる点にあります。
ここで言う「インテリジェントに組み合わせる」とは、アプリケーションの特性や回線の混雑状況をリアルタイムに判断し、通信を最適な経路へ自動的に振り分けることを意味します。たとえば、「Microsoft 365のような信頼できるクラウド アプリは、各拠点から直接インターネットへ」「基幹システムへのアクセスは高品質な閉域網へ」といった柔軟な制御が可能です。
この経路制御には、NTTの「フレッツ光」のような一般的なブロードバンド回線に加え、広域イーサネットやインターネットVPN (その多くはMPLS技術が基盤)といった閉域網、さらには専用線、4G/5G、衛星回線なども統合管理の対象となります。
このように通信経路を最適化することで、従来のWANと比較してコスト効率と柔軟性が飛躍的に向上します。また、中央のコントローラーでネットワーク全体のポリシーを一元的に管理できるため、拠点の追加や構成変更を迅速かつ容易に行える点も大きな特長です。
SD-WANと従来の拠点間VPNとの違い
SD-WANを検討する際、よく比較対象となるのが「拠点間VPN」です。まず明確にしておきたいのは、ここで言うVPNとは、個人がリモート ワークで利用する「リモート アクセスVPN」ではなく、本社や支社といった拠点同士を安全に接続するための「サイト間VPN (Site-to-Site VPN)」を指すということです。
そして重要なのは、SD-WANとVPNはまったくの別物ではなく、SD-WANは従来の拠点間VPNが持つ「安全な通信路を確保する」という機能を包含し、それをさらに発展させたソリューションであるという点です。両者の本質的な違いは「通信の柔軟性」と「運用効率」、そしてそれに伴う「セキュリティ アーキテクチャーの変化」にあります。
従来の拠点間VPNは、主に以下の2つの方式で構築されてきました。
- インターネットVPN:インターネット回線上にIPsecなどで暗号化されたトンネルを構築する方式。安価に導入できる反面、通信品質が回線状況に左右され、安定性に欠ける点が課題となります。
- IP-VPN/広域イーサネット:通信キャリアが提供する閉域網サービス。高品質で安定していますが、コストが高く、回線の増速や設定変更に時間と手間がかかるなど、柔軟性に欠ける点が課題となります。
多くの企業は、これらの一方をメインに採用し、その制約の中でネットワークを運用する必要がありました。
一方、SD-WANはこれらのインターネット回線や閉域網といった複数の異なる回線(アンダーレイ)を束ね、その上に仮想的なネットワーク(オーバーレイ)を構築します。そして、アプリケーションの種類や通信状況に応じて、リアルタイムに最適な回線へトラフィックを自動で振り分けることができるのです。
両者の違いを以下の表にまとめます。
従来の拠点間VPN | SD-WAN | |
|---|---|---|
主な目的 | 安全な拠点間通信の確保 | 安全かつ効率的な通信最適化 |
回線構成 | 単一回線が基本(インターネットまたは閉域網) | 複数回線のハイブリッド利用(インターネット、閉域網、4G/5Gなど) |
通信制御 | 静的な経路制御(送信元/宛先IPベース) | 動的な経路制御(アプリケーション識別、回線品質ベース) |
管理方式 | 拠点ごとの個別管理 | 中央コントローラーによる一元管理 |
通信品質 | 回線の遅延や輻輳の影響を受けやすい | 最適経路を自動選択し、安定した通信を維持 |
可視性と分析 | 通信状況の可視性は限定的 | アプリケーション単位でのトラフィック分析や可視化機能を標準搭載 |
コスト | 高品質を求めると高コスト、安価にすると品質が不安定 | ブロードバンド回線の活用でコストと品質のバランス最適化が可能 |
結論として、SD-WANはVPNの代替というよりは「VPN技術を基盤に、高度なインテリジェンスと集中管理機能を追加した、次世代の拠点間ネットワーク ソリューション」と理解するのが適切です。「品質」と「コスト/柔軟性」の二者択一を迫られる従来のVPNの課題を解消し、クラウド時代に最適なネットワークを実現します。
SD-WANの仕組み
SD-WANの中核となるのは「コントローラー」と呼ばれる集中管理機能です。
各拠点にはエッジ デバイスが配置され、コントローラーと連携してネットワーク全体の通信を監視、制御します。これにより、アプリケーションの種類や優先度に応じた柔軟なルーティング、トラフィックの可視化や最適化が可能になります。

SD-WANのメリットは以下のとおりです。
- 回線の使い分けが可能になる
- LBO (ローカル ブレイク アウト)が可能になる
- トラフィックの状況可視化が容易になる
- ネットワークの輻輳を解消できる可能性がある
- 構築の工数が削減される
以下、順に解説します。
回線の使い分けが可能になる
SD-WANは複数の通信回線を同時に活用できるため、アプリケーションや通信内容に応じて最適な回線を自動的に割り当てることができます。たとえば、業務に直結するアプリケーションは専用線や高品質な回線に、一般的なWebアクセスはコストの低いインターネット回線に振り分けるといった柔軟な運用が可能です。
LBO (ローカ ルブレイクアウト)が可能になる
従来のWANでは、拠点からの通信を一度データセンターに集約してからクラウド サービスへ接続していました。
一方、SD-WANでは、各拠点から直接クラウドにアクセスできるローカル ブレイクアウト(LBO)を実現できます。これにより、通信経路が短縮され、クラウド アプリケーション利用時の応答速度が向上し、ユーザー エクスペリエンスが大きく改善されます。
トラフィックの状況可視化が容易になる
SD-WANはアプリケーション単位で通信状況を可視化できる機能を備えています。どのサービスが帯域を多く使用しているか、どの区間で遅延が発生しているかを直感的に把握できるため、問題発生時の原因特定や対策の検討を迅速に行えます。これにより、ネットワーク運用全体の効率化にもつながります。
ネットワークの輻輳を解消できる可能性がある
複数回線を常時監視し、リアルタイムで最適な経路にトラフィックを振り分けることで、特定の回線に通信が集中することによる輻輳を防ぐことができます。その結果、通信の安定性を維持し、業務継続性(BCP)の向上にも寄与します。
構築の工数が削減される
従来のWAN環境では、拠点ごとに現地での設定作業や機器調整が必要でした。SD-WANでは中央コントローラーからポリシーや設定を一括配信できるため、拠点の追加や設定変更の際の工数を大幅に削減できます。IT部門の負担軽減に加え、運用コストの最適化にもつながります。
SD-WAN導入における注意点とセキュリティ課題
SD-WANは多くのメリットをもたらす一方で、その導入にはいくつかの注意点が存在します。特に、アーキテクチャーが大きく変わることに伴うセキュリティ面の課題は、見落とすと新たなリスクを生み出すことになりかねません。
性能と運用面の注意点
まず、ネットワークの性能と運用に関わる基本的な注意点です。
利用するインターネット回線の品質に依存する
ブロードバンド回線を活用することでコストを抑えられますが、その回線の品質や信頼性が通信全体のパフォーマンスに直結します。通信が不安定な場合、業務に影響が出る可能性を考慮しなくてはなりません。
製品/ベンダー選定が重要になる
SD-WANと一口に言っても、提供される機能やセキュリティに対する思想はベンダーによってさまざまです。自社の要件(アプリケーションの優先度、セキュリティポリシー、運用体制など)を明確にし、最適なソリューションを選ぶ必要があります。
見落とされがちな「従来型SD-WAN」のセキュリティ課題
さらに重要なのが、従来型のSD-WANアーキテクチャーが内包するセキュリティ課題です。
ローカル ブレイクアウトによるセキュリティの穴
各拠点から直接インターネットへ抜けるローカル ブレイクアウトは、クラウド サービスのパフォーマンスを向上させますが、同時にデータセンターの堅牢なセキュリティ(ファイアウォール等)を通過しない通信経路を生み出します。この「セキュリティの穴」を放置すれば、拠点はサイバー攻撃の直接的な脅威にさらされることになります。
脅威の横展開(ラテラルムーブメント)のリスク
従来型SD-WANは、IPsec等で暗号化されたトンネルで各拠点を結び、一つの広大なプライベートネットワークを構築します。これは便利な反面、一度侵入を許すと、マルウェアがネットワーク内を自由に移動し、他の拠点へ感染を拡大させるリスクを抱えています。
攻撃対象領域(アタック サーフェス)の増大
拠点に設置されたSD-WAN機器は、他の拠点からの接続を待ち受けるため、常にインターネットにその存在をさらしています。これが攻撃者にとっての侵入口となり、機器の脆弱性を突かれるリスクにつながります。
これらの課題は、SD-WANの導入メリットを損ないかねない重大なものです。そのため、SD-WANを選定する際には、単なる経路制御の機能だけでなく、これらの課題を根本から解決する「ゼロトラスト」の原則に基づいたセキュリティがどのように実装されているかを評価することが不可欠です。
まとめ
SD-WANは、複数の回線を柔軟に使い分けることでコストと品質のバランスを最適化し、ローカル ブレイクアウトによってクラウド接続の効率を高めるなど、従来のWANやVPNが抱えていた課題を解決する、新しい働き方に適したネットワーク基盤です
しかし、これらのネットワーク上のメリットを追求するだけでは、現代の企業が直面する課題をすべて解決できるわけではありません。本記事で見てきたように、従来型のSD-WANアーキテクチャーは脅威の横展開(ラテラル ムーブメント)のリスクや、各拠点での新たなセキュリティ対策の必要性といった、見過ごすことのできない課題も浮き彫りにしました。
したがって、これからの企業ネットワーク戦略で真に目指すべきは、SD-WANがもたらすパフォーマンスや柔軟性といったメリットを最大限に享受しつつ、同時にゼロトラストの原則に基づいた強固なセキュリティを、シンプルかつ統合的に実現することです。
この「ネットワークの最適化」と「ゼロトラスト セキュリティ」をいかにして両立させるか。それこそが、クラウド サービスの利用がさらに拡大する今後のネットワーク戦略における、最も重要な鍵となるでしょう。
Zscalerのソリューションで従来のネットワークの脆弱性を排除
Zscaler Zero Trust SD-WANは、本記事で指摘してきた従来型SD-WANに潜む脆弱性(ラテラル ムーブメントのリスクや攻撃対象領域の増大など)を根本から取り除く、次世代のソリューションです。ネットワークをあらゆる場所に拡張する一方で、ランサムウェア拡散のリスクを伴う従来のSD-WANとは異なり、セグメント化されたカフェ型の拠点を構築し、任意のブロードバンド回線を通じてトラフィックをZscalerのプラットフォームへ安全に転送します。これにより、拠点間VPNや複雑なオーバーレイ ルーティングが不要となり、脅威のラテラル ムーブメントを防御します。
セキュリティの強化
拠点同士が直接通信せず、すべてのアクセスがZscalerクラウドを介して「ネットワーク」ではなく「アプリケーション」に直接接続されるため、脅威のラテラル ムーブメントを完全に遮断します。また、拠点側でインバウンド通信を一切待ち受けないため、従来型SD-WANやサイト間VPNが抱えていた公開された攻撃対象領域(アタック サーフェス)の問題を防御します。
アーキテクチャーの簡素化
ローカル ブレイクアウトの「セキュリティの穴」を埋めるために必要だった、各拠点でのファイアウォールやプロキシといった追加のセキュリティ スタックが不要になります。これにより、不要なルーティングの複雑さを取り除き、運用コストと管理負荷を大幅に削減します。
パフォーマンスの向上
データセンターを経由する非効率なヘアピン接続や、複雑なサイト間VPNを、クラウドへの安全なダイレクト接続アーキテクチャーに置き換えます。これにより、トラフィック フローが最適化され、クラウド サービス利用時のユーザー エクスペリエンスが大きく改善します。
展開の迅速化
ゼロタッチ プロビジョニングと事前定義済みテンプレートにより、拠点の迅速な立ち上げを実現。異なるIT環境の拠点間もすばやく接続でき、M&Aに伴う統合作業も支援します。
デモを依頼して、Zscaler Zero Trust SD-WANがどのように脅威のラテラル ムーブメントを排除し、あらゆる場所のユーザー、デバイス、サーバーにゼロトラストを拡張できるかをご確認ください。
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