課題
積極的なM&A戦略で急成長を続けてきたが、その際のネットワーク移行に時間と労力が必要であり、シナジー効果による価値創出までの時間も長くなっていた
成果
M&A対象子会社のネットワーク統合の期間を大幅に短縮
M&Aのシナジー効果による価値創出までの期間も前倒し
セキュリティはもちろんのこと、ユーザー体験も向上
SBSホールディングス株式会社 の概要
ナショナルブランドの物流企業を積極的にM&Aすることで、急速な成長を続けているSBSグループ。ここで進められているのが、従来型の閉域網中心のネットワークから、Zscalerを活用したゼロトラストネットワークへの「パラダイムシフト」である。その目的は、M&Aした子会社のネットワーク移行をより円滑に進めること。M&Aのシナジー効果による新たな価値を、短期間で創出することが目指されたのだ。ゼロトラストネットワークの構築にZscalerを採用したのは、環境構築に必要な時間が極めて短く、段階的な展開も容易なことが評価されたからである。すでにネットワーク移行の期間を大幅に短縮することに成功しており、セキュリティとユーザー体験のさらなる向上も実現している。
業界:
運輸サービス
本社:
東京都新宿区西新宿8-17-1 住友不動産新宿グランドタワー25階
Size:
23,562名(連結 / 2023年12月末時点)
事例の詳細
「売って終わり」ではないSBSグループのM&A
1987年に当時では革新的だったサービスである「首都圏の即日配送」で創業して以来、急成長を続けてきたSBSグループ。創業35年を迎えた2022年には連結売上高4,544億円を突破、営業利益も218億円を超えている。この成長を支えているのは、グローバルに広がる多様な物流機能と、革新的なソリューション提案力、そして他の追随を許さないスピード感を兼ね備えていることだ。これによって「物流のパラダイムシフト」を牽引し続けているのである。
しかし同グループの成長要因として、もう1つ忘れてはならないことがある。それは積極的なM&A戦略を実行し続けてきたことだ。
2003年にJASDAQへの上場を果たしてからというもの、2004年に雪印物流(現 SBSフレック)、2005年に東急ロジスティック/ティーエルトランスポート/小田急トランスポート(いずれも現 SBSロジコム)をM&Aしており、その後も複数の国内大手企業の物流子会社を中心にM&Aを実施、2021年も古河物流(現 SBS古河物流)をM&Aしている。この20年間の投資総額は約830億円。PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:M&A後の統合プロセス)によって企業価値を向上させ、売上高を24倍、営業利益を56倍にすることに成功している。
「ナショナルブランドの物流を担う企業が、この20年間で次々とグループに参画してきました」と振り返るのは、SBSホールディングス株式会社 グループITインフラ統括部 ITインフラ戦略課で課長を務める宮崎 健 氏。そして同グループのM&Aのスタイルを、次のように説明する。
「SBSグループに入っていただく新しい運送子会社は、売り手であった元の親会社との関係が切れてしまうわけではありません。株式も当グループが全て買い取るわけではなく、一定量の株式は元の親会社に残されています。このようなM&Aを行っているのは、元の親会社側が売却した子会社に対して、『運び手』としての役割を継続して期待しているからです。つまり元の親会社とは、顧客としての関係性が維持されているのです」。
「運び手」としての役割を継続して期待しながらSBSグループに売却する最大の理由は、自社の運送子会社として維持し続けるよりも、SBSグループという運送専門グループに組み込むことで、より高度な運送が可能になるからだ。つまりSBSグループのM&Aは、売り手企業にとっては子会社を「売って終わり」ではなく、これまで以上に大きな価値をもたらすことが期待されているのである。
ネットワーク移行を短期化するため考え方を転換
このようなM&Aを成功させる上で重要になるのが、M&A対象となった運送子会社が、売り手側グループのITネットワークからSBSグループのネットワークへと、円滑に移行することだと宮崎氏は指摘する。
「顧客としての関係を維持しながら子会社を売却する際には、ネットワーク移行で大きなトラブルが起きないことはもちろんのこと、移行後のセキュリティレベルが高いまま維持されることも求められます。実際にこれまでM&Aしてきた会社の親会社は、この評価をしっかりと行った上で当グループをM&Aの交渉先に選んでくださいました。この期待に添えなければ、この20年間に実施してきた数多くのM&Aと、それに伴う急成長もなかったと言えます」。
しかし以前のネットワーク移行には、大きな課題があったと振り返る。それは閉域網を中心としたアプローチだったため、M&A対象子会社の個社専用のネットワーク構築と、SBSグループのイントラネットへの統合を行う際に、1年近くに及ぶ計画が必要だったことである。
「従来型のアプローチでは、リスク分析に3~4か月、接続確認テストに半年程度の時間がかかっていました。そのために多大な先行計画と投資が必要になり、労力もかなりかかっていたのです。しかしこれで得られるのは、既存環境と同等のセキュリティレベルとユーザーアクセスであり、投資金額に対する付加価値は決して大きくありません。しかもM&Aのシナジー効果が生まれるまでに時間がかかる、という問題もありました」。
この問題を解決するため、SBSグループは「ユーザーとアプリケーションの間を延伸したネットワークで接続する」という、閉域網の考え方から脱却することに決定。そのために導入したのが、Zscalerを活用したゼロトラストネットワークだ。これによって「任意のネットワークを介して誰が何にアクセスできるのかを決定する」という世界へと、パラダイムシフトしていったのである。
ゼロトラスト化でZscalerを採用した2つの理由
SBSグループがゼロトラストネットワークを検討し始めたのは2020年10月。その実現のためにZscalerを選択した理由について、宮崎氏は次のように説明する。
「まず私自身がZscaler Private Accessを見つけ、それがどのような動きをするのかを検証していったのですが、環境構築にかかる時間が非常に短いことに感銘を受けました。テスト環境を作る際には、ゼットスケーラー社に入社して2か月の方が作成した『Zscaler Private Accessの環境を作る』というデモ動画と『初めてのZPA』というドキュメントを参考にしたのですが、これくらいなら自分でもできそうだと思って構築に着手すると、わずか1日でできてしまったのです。リモート接続の環境をこんなに簡単に作れるのかと、率直に驚きました」。
自分たちでもテスト構築が簡単に作れるのであれば、インテグレーターに入ってもらえば必ず「モノになる」と確信。Zscaler採用の理由としては、これが最も大きかったと言う。
「いったんZscalerを導入してPACファイル(プロキシ自動設定ファイル)を準備してしまえば、ゼロトラストネットワークがすぐに構築できます。閉域網を中心とした『境界型』ネットワークの構築と比較すれば、1年近くかかっていたPMIが数か月へと短縮されるのです。これは非常に大きなインパクトがありました」。
これに加えて、段階的な展開が容易であることも高く評価された。世の中には「ゼロトラストネットワークへの移行は難しくて負担も大きいもの」という誤解があるが、Zscalerならオーバーレイ技術によって既存のものを一気に大きく変えることなく、まるでオセロゲームで相手の駒を少しずつひっくり返していくように、軽い気持ちで進めていくことが可能なのだ。
「段階的な展開が可能だということは、導入する上で大きな安心感につながりました。仮に失敗しても大きな投資を行う前なので、少ないダメージでやり直すことができるからです。これは事前に評価もしていますが、実際にやってみることで、改めて体感したことでもあります」。
Zscalerには十分に満足、今後はサイバー攻撃対策を強化
2021年3月にはZscalerのPoC環境構築をスタートし、翌月からPoCを実施。その検証結果を受け、2021年8月にZscaler Private Access(ZPA)とZscaler Internet Access(ZIA)の導入を決定する。そして2021年10月には本番環境の構築に着手。同年11月には一般ユーザーの利用を開始している。
これによって、M&A対象企業のネットワーク移行に関するリスク分析から接続確認テストまで、わずか3か月で実施できる体制を確立。M&Aのシナジー効果による新たな価値が創出されるまでの期間を、半年近くも前倒しすることに成功したのだ。もちろんネットワーク移行・統合のための労力も大幅に削減。しかもセキュリティレベルは、以前よりも向上していると言う。
しかしZscaler導入で得られたメリットはこれだけではない。ユーザーエクスペリエンスも高くなっている。
「その1つがクラウドサービスに対するアクセススピードの向上です。当グループでは日常的な情報共有やコミュニケーションの基盤としてMicrosoft 365を使っているのですが、これへのアクセスが飛躍的にスピードアップしました。実際にユーザーからも『だいぶ速くなった』『いいものを入れてくれた』というコメントをもらっています。これは私自身も嬉しく、Zscalerを入れて本当に良かったと感じています」。
これに加えて、社外からイントラネットにアクセスする時のユーザー体験も向上している。以前のVPNによるアクセスで必要だった接続開始時の操作が不要になり、アクセススピードも高くなったのだ。実際にユーザーからも、社内LANに接続しているのとほぼ遜色がない、と言われていると宮崎氏は述べている。
Zscalerで実現したゼロトラストネットワークには、もう十分に満足していると宮崎氏。セキュアなユーザーアクセスとユーザー体験に関しては、「これ以上に求めるものはない」とまで言い切る。その一方で、サイバー攻撃のアタックサーフェスの問題は、今後の大きな課題として残されているとも指摘。ゼットスケーラーは2023年6月に「Zscaler Risk360」を発表しているが、次のステップではその導入・活用も含め、サイバー攻撃対策の強化に取り組んでいきたいと語る。
このようにZscalerによって「ネットワークのパラダイムシフト」を成功させたSBSグループ。同グループのM&A戦略は今後さらに加速し、これまで以上の成長をもたらすことになるはずだ。
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