/ ソーシャル エンジニアリングとは
ソーシャル エンジニアリングとは
ソーシャル エンジニアリングとは、人間の感情や信頼を巧みに操り、不正に情報やシステムへアクセスする手法です。攻撃者は電話やテキスト メッセージ、フィッシング攻撃、あるいは対面での要求などを通じて、本物のような状況を作り出し、ターゲットをだましてセキュリティを損なう行動を取らせます。

ソーシャル エンジニアリングの仕組み
ソーシャル エンジニアリングはソフトウェアの脆弱性ではなく、人間の心理的な弱点を突く攻撃手法であり、攻撃者はターゲットの行動パターンに基づいて巧妙な手口を仕掛けてきます。悪意のある人物が標的となる個人や組織を特定すると、電話番号やメール アドレス、SNS上の情報などを収集し、ターゲットの行動パターンや人間関係を把握します。攻撃者はこうした情報をもとに、巧みに信頼を得る作戦を仕掛け、リスクのある行動を取らせようとします。
この攻撃は習慣や共感といった人間の心理を悪用することで、すばやく信頼を得て、相手が脅威に気づけないよう仕向けます。
ソーシャル エンジニアリング攻撃のステップ
- 監視とリサーチ:攻撃者は、SNSの投稿やメール アドレスなどの情報を調べて、ターゲットの習慣や人間関係を把握します。
- 初期接触と信頼構築:同僚や権威者など信頼される人物になりすまして接触し、安心感と信頼性を演出します。
- 誘導と要求:一定の信頼を得た後、「至急」や「正当な理由」を装って、リンクのクリックや機密情報の提供などの行動を要求します。
- 侵害の拡大と悪用:被害者が要求に応じると、攻撃者はマルウェアのインストール、さらなるデータ窃取、システムへの継続的な不正アクセスなどを行います。
ソーシャル エンジニアリング攻撃の種類
ソーシャル エンジニアリングにはさまざまな手口が存在し、いずれも人間の心理を巧みに操作します。特定の重要人物を狙った高度な攻撃から、多数の人を対象にした「ばらまき型」まで、その手法は多岐にわたりますが、どれも「信頼」「感情」「恐怖」を使って相手を引き込むのが特徴です。以下に、現在の脅威環境で見られる主なソーシャル エンジニアリングの例を5つ紹介します。
- フィッシング詐欺:攻撃者は、本物そっくりのメールやメッセージを送信し、被害者に偽のリンクをクリックさせたり、個人情報を入力させたりします。これらのメッセージは、銀行やテクノロジー企業など信頼される機関を装ったデザインであることが多く見られます。
- ビッシング:ビッシング(ボイス フィッシング)とは、サイバー犯罪者が音声通話で信頼できる個人や組織になりすまし、被害者をだましてパスワードや財務情報などの機密情報を開示させるソーシャル エンジニアリングの一種です。
- ビジネス メール詐欺(BEC):サイバー犯罪者は、上級幹部やビジネス パートナーになりすまし、「緊急性が高い」という名目で送金や機密文書の提出を要求します。被害者となる従業員は、疑うことなく指示に従ってしまうことが少なくありません。
- 水飲み場型攻撃:攻撃者は特定の集団(例:特定企業の従業員)がよく利用するWebサイトを特定し、そこにマルウェアを仕込みます。信頼されたサイトが侵害されていることを知らないターゲットは安心してアクセスし、気づかないうちに有害なソフトウェアをダウンロードしてしまいます。
- 人間のなりすまし:この手口では、攻撃者がテクニカル サポート担当者や政府職員など、信頼される内部関係者や権威ある人物になりすまします。巧妙に考えられた質問に対し、被害者は「本人確認」の名目で社会保障番号やその他の個人情報をつい明かしてしまうことがあります。
ソーシャル エンジニアリングの一般的な標的
脅威アクターは、協力的になりやすい人物や貴重なデータへのアクセス権を持つ人物を標的にします。取り扱う情報の性質や組織内での役職によって、特定の業界、職種、属性が特にリスクにさらされやすくなります。以下は代表的な4つの例です。
- 医療従事者:病院やクリニックで働くスタッフは、社会保障番号や個人の病歴などを含む医療記録に幅広くアクセスできます。こうした情報は機密性が高いため、攻撃者にとって格好の標的となっています。
- 財務担当者:銀行や経理部門の従業員は、詐欺や窃取に悪用できる重要な財務情報を保有しているため、ソーシャル エンジニアリング攻撃に狙われやすい職種の一つです。
- 管理アシスタント:管理業務に携わるアシスタントは、スケジュールや経費記録など、組織内部の機密に通じる多くの情報を扱っており、そこから深部への侵入経路を提供してしまう恐れがあります。管理アシスタントは経営陣の最初の連絡窓口となることが多く、侵入を試みる攻撃者にとって主要な標的となります。
- 重要な経営幹部:Cレベルの幹部、取締役、役員は組織の重要情報にアクセスできます。攻撃者はこうした重要なポジションに就く人物の信頼を得て、不正な資金移動を実行したり、機密文書を漏洩させたりします。
- サードパーティー ベンダー/請負業者:システムへのアクセス権や機密データを持つ外部パートナーは、セキュリティ対策が脆弱であることが多く、組織への侵入経路として狙われやすくなっています。
ソーシャル エンジニアリングの実例
意識啓発キャンペーンの強化や堅牢なセキュリティ対策が進む中にあっても、ソーシャル エンジニアリングは依然として深刻な脅威であり、近年では著名な被害も多数発生しています。技術の進化により、攻撃者は手口を洗練させ、重大な被害が発覚するまで検知されないケースも少なくありません。以下に、実際のインシデントに基づくソーシャル エンジニアリングの事例をいくつか紹介します。
- 音声のディープフェイク詐欺(ビッシング):攻撃者は高度な音声ツールを使用し、役員の声を模倣して従業員に電話をかけ、役員の承認があると誤信させて不正な口座に資金を送金させました。
- スミッシング キャンペーン:米国内の特定の州を装い、運輸局や駐車管理局などの名義で未払い通行料の支払いを促す悪意のあるメッセージが送信されています。
- 暗号通貨へのスピア フィッシング:サイバー犯罪者は有名な暗号通貨取引所を標的とし、従業員宛てにマルウェアを仕込んだソフトウェアのリンクを含むメールを送付しました。この攻撃により、顧客の個人情報が盗まれる事態に陥りました。
コンプライアンスと規制の影響
ソーシャル エンジニアリング攻撃によって関係者のデータが流出した場合、十分な保護体制が整っていなかった組織は深刻な法的責任を問われる可能性があります。EUの一般データ保護規則(GDPR)や米国のカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)など、各国、各地域の規制機関は厳格なデータ保護要件を定めています。こうした要件に違反すると、ずさんなセキュリティ運用や漏洩通知の遅延を理由に多額の罰金が科されるだけでなく、消費者からの信頼を回復不可能なほど損なう恐れがあります。さらに、ニューヨーク州金融サービス局によるサイバーセキュリティ規制のように、規模は小さくても増加傾向にある新たな法令も、組織に対して専用のインシデント対応フレームワークの整備を求めています。
金銭的な罰則にとどまらず、ソーシャル エンジニアリングの侵入を防ぐ努力を怠ったと見なされることで、組織は評判面での大きな損害を被るリスクがあります。攻撃者に組織の重要情報や顧客の個人情報を盗まれれば、その影響は単なる経済的損失にとどまらず、甚大な波及効果をもたらします。実際、標準的なセキュリティ プロトコルを回避する巧妙な手口により顧客データを意図せず露出させたとして、組織が訴訟を起こされる事例も報告されています。各国の規制当局は、新たな脅威に対応するためにガイドラインを継続的に更新しており、組織側もその変化に追随する必要があります。コンプライアンスとは、単に法的要件に従うことだけではありません。組織の長期的な安定を確保するために、強固なサイバーセキュリティ対策とソーシャル エンジニアリング攻撃に対する防御策を実装することも不可欠なのです。
ソーシャル エンジニアリング対策
ソーシャル エンジニアリング攻撃から身を守るには、誰もが標的になり得るという前提のもと、積極的な対策を講じることが重要です。最も効果的な防御策の多くは、従業員の教育と、継続的なサイバーセキュリティ意識を根付かせる文化の醸成にあります。以下は、こうしたリスクを軽減するためのベスト プラクティスです。
- セキュリティ意識向上トレーニング:従業員に対し、ソーシャル エンジニアリングの手口に関する知識を提供します。実際のシナリオを用いて、送信元アドレスの不一致や即時対応を促す不自然な依頼といった、巧妙な詐欺の兆候を見分ける力を養成します。
- スパム フィルターとメール認証:高度なフィルターを導入し、悪意のあるメッセージやフィッシング メールを自動的に識別してブロックします。あわせて、受信メッセージが信頼できる送信元からのものであることを検証するツールの活用も重要です。
- 多要素認証:ワンタイム コードなどを使った追加認証を求めることで、重要な業務アプリへのアクセスをより堅牢にします。パスワードが盗まれても、多層的なチェックが防波堤となり、被害を最小限に抑えることができます。
- アクセス権の制限:一つのアカウントが侵害されても、システム全体に影響が及ぶことのないようにします。最小特権の原則を徹底し、従業員が自身の業務に必要なデータやリソースにのみアクセスできるよう制限します。
ソーシャル エンジニアリングにおける生成AIの役割
生成AI (GenAI)は、ソーシャル エンジニアリングの手口を劇的に進化させています。攻撃者が高度にパーソナライズされた攻撃を簡単に作成できるようになったため、攻撃の敷居が大幅に下がったのです。共感や語調、文体といった人間らしい要素を再現できる高度な言語モデルにより、攻撃者はターゲットの心に響くメッセージを容易に作成できます。攻撃者は、ソーシャル メディアのデータ収集ツールを使って膨大な個人データを生成AIシステムに取り込み、日常のやり取りに自然に溶け込む違和感のないメールや音声を生成します。こうした手法により、パーソナライズされたフィッシング攻撃やリアルななりすましが可能になり、ソーシャル エンジニアリングの巧妙さはこれまでにないレベルに達しています。
現在では、メールやテキスト メッセージにとどまらず、生成AIを活用してリアルに聞こえる音声や映像のディープ フェイクも生成されており、詐欺の信憑性と影響力が一層高まっています。その結果、偽の電話やライブ配信がより巧妙に仕組まれ、人間の信頼を突く攻撃がますます高度化しています。
防御策が強化される一方で、AIを悪用した攻撃も進化を続けており、慎重なユーザーでさえあざむかれる可能性がある状況が生まれています。生成AIは攻撃者に次々と新しい手口を与える強力なツールになっているため、積極的なセキュリティ対策と継続的な意識向上のための教育がこれまで以上に重要になっています。
ソーシャル エンジニアリングの今後の展望
攻撃はますます巧妙化しており、従来の手口と新興技術を組み合わせて進化しています。人工知能(AI)は、なりすまし攻撃のスピード、規模、自然さを向上させるために活用されており、ディープフェイク音声や動画がその代表例です。攻撃者は今や、馴染みのある人物の声を複製することができ、従来の電話詐欺やメール詐欺に新たな脅威を加えています。たとえ技術に精通したユーザーであっても、完璧に近いシミュレーションにだまされる可能性があるため、より一層の警戒が求められます。
さらに憂慮すべきは、自動化技術の活用が進んでいる点です。これにより、攻撃者は精巧なスピア フィッシングやソーシャル エンジニアリング攻撃を瞬時に展開できるようになっています。攻撃者はターゲットをすばやく切り替え、公開されたばかりのソフトウェアや広く使用されているプラットフォームの脆弱性を瞬時に突くことができます。このような動的な脅威環境においては、ファイアウォールや堅牢なエンドポイントといった静的な防御だけでは不十分であるため、AI分析と人間による監視を組み合わせた、柔軟かつ適応力のあるセキュリティ戦略の重要性がこれまで以上に高まっています。
さらに将来を見据えると、現実世界とデジタル空間の境界は一層曖昧になり、攻撃者は拡張現実(AR)からIoTデバイスに組み込まれたシステムに至るまで、あらゆる技術を武器化してくると予測されます。将来の環境では、リアルタイムのデータと人工的に生成されたコンテンツが融合した「もっともらしい幻影」の数々によって、無防備な個人が巧妙に誘導される可能性があります。進化する脅威に対応するためには、より優れた技術だけでなく、懐疑的な視点を根づかせる文化と、部門を超えた連携によってレジリエンスを育む取り組みが必要不可欠です。
ソーシャル エンジニアリングにおける生成AIの役割
ゼロトラスト アーキテクチャーは、あらゆるやり取りを本質的に信頼できないものと見なすことで、サイバーセキュリティに変革をもたらします。ユーザーが一度認証されたからといってネットワーク全体へのアクセスを許可するのではなく、ゼロトラストでは常にアイデンティティー、コンテキスト、セキュリティ態勢を検証し続けます。この戦略により、たとえ1人の被害者がだまされたとしても、攻撃者がネットワーク内を水平移動するリスクを大幅に軽減できます。結果として、「人」の部分で侵害が発生しても効果を維持できるセキュリティ態勢が実現されます。
このモデルでは、マイクロセグメンテーションの導入によって、ソーシャル エンジニアリング攻撃への耐性がさらに高まります。小さく分離されたゾーンにより、攻撃者が侵害された端末から別の場所へ移動することが困難になります。これにリアルタイム モニタリングを組み合わせることで、繰り返されるログイン試行や不審なデータ転送といった悪意のある振る舞いの兆候を迅速に検知できます。つまり、ゼロトラストはヒューマン エラーそのものを完全に防ぐわけではありませんが、それによる被害を大幅に食い止めることができるのです。
ゼロトラストを推進するベンダーは、継続的な脅威から得られるインサイトを活用すると同時に、ユーザー行動分析や動的なコンテキスト チェックなどの機能を統合することで、このアーキテクチャーを日々進化させています。一部では、このような厳格な検証が生産性を損なうとの指摘もありますが、セキュリティと効率性を両立する新たなソリューションがすでに開発されています。特に高度ななりすましやAIを悪用したソーシャル エンジニアリングの手口が増加する中で、ゼロトラストは組織とその従業員を守るための最も有効な方法として注目されています。
Zscalerのソーシャル エンジニアリング対策
Zscalerは、AIを活用したZero Trust Exchangeと継続的なアイデンティティー脅威の検知と対応(ITDR)機能により、従来の境界型セキュリティに内在する脆弱性を解消し、ソーシャル エンジニアリングに対する包括的な保護を提供します。Zscalerの先進的なゼロトラスト アーキテクチャーは、攻撃対象領域を最小化し、フィッシングや認証情報を狙った攻撃を積極的にブロックして無効化することで、ユーザーのアイデンティティーが侵害されたり、権限が昇格されたりするのを阻止します。
また、アイデンティティーの構成、リスクのある権限、リアルタイムのアイデンティティー関連の脅威を継続的に監視することで、フィッシング、ビジネス メール詐欺、認証情報の窃取といったソーシャル エンジニアリング手法に基づく攻撃を迅速に検知し対処できるようにします。統合されたポリシーの施行、AIによるリスク評価、堅牢なアイデンティティー保護の管理を通じて、組織はアイデンティティーを標的とした脅威によるリスクを確実に軽減しながら、以下を実現できます。
- 攻撃対象領域の最小化:許可されていないユーザーからアプリケーションを不可視化することで、標的型フィッシングやなりすましのリスクを大幅に低減します。
- リアルタイムでのアイデンティティーベースの脅威の検知:侵害された認証情報や、従業員の信頼を悪用する悪意のあるアクティビティーを特定します。
- ラテラル ムーブメントの排除:ユーザーを必要なアプリケーションにのみ直接接続させることで、侵害後の権限昇格を防ぎます。
- リスクの高いアイデンティティー構成の迅速な修復:直感的なアラートと実行可能なガイダンスにより、組織の「人の防御力」を強化します。
デモを依頼して、Zscalerがソーシャル エンジニアリングの脅威に対する防御をどのように強化できるかをご覧ください。
おすすめのリソース
よくある質問
よくある質問
緊急性をあおる要求、機密情報の提供依頼、思いがけないオファーなどには注意が必要です。個人情報や財務情報を共有する前に、必ず送信者の身元を確認してください。
不審な点がある場合は、返信したり情報を提供したりしないことが重要です。組織のIT部門やセキュリティ部門、または関連機関に報告し、可能であれば送信者をブロックしてください。
強固なパスワードの使用、多要素認証の有効化、機密情報の要求に対する確認を徹底し、常に警戒心を持つことが重要です。また、サイバーセキュリティに関する知識を定期的にアップデートし、リンクをクリックしたり、ファイルをダウンロードしたり、個人情報を共有したりする前に、慎重に考える習慣を身につけてください。
ソーシャル エンジニアリングは、人の心理を巧みに利用して機密情報を引き出したり、不正な行動を取らせたりする手法です。フィッシングはソーシャル エンジニアリングの一種であり、偽のメールやメッセージ、Webサイトを使って被害者をだまし、認証情報や金融情報を入力させたり、不正なリンクをクリックさせたりします。
ソーシャル エンジニアリングが効果的なのは、技術的な脆弱性だけに頼るのではなく、信頼、恐怖、欲望、好奇心などの人間の感情を悪用するためです。攻撃者は人々の自然な傾向や行動を悪用し、機密情報を開示させたり有害な行動をとらせたりします。
